極端な言い方かもしれないが、悩み事はは、その悩みを誰に相談するかを決めた時点で、
もうある程度は解決しているといってもいい。例えば、自分の行動について心理的にAにしようか
Bにしようか悩んでいるとする。実際はAの方にかなり気持ちが傾いているが、
なかなか確信や決心することができないというとき、自分の周りを見渡して、
恐らくは「Aの方がいい」と言ってくれそうな友人に相談を持ちかけるはずである。
その目論見は大抵当たりで、相談相手には励まされたり賛同してくれる。
やっとすっきりした気分でAという行動を起こすことになる。
つまり悩み事は、自分の考えを肯定してくれそうな相談相手を選んだ時点で、
大部分は解決しているというわけである。
なんとなく、ヤラセというか予定調和というか、
そんなことなら最初から相談しなくてもよさそうなものだが、これは人間にとっては重要な手続きである。
というのも、人間は自分の考えに対して、常に自分以外の人から同意を求めるものだからである。
女性が血液型やタロット、霊感、電話、メール、心理テストなどの占いが好きなのもこのような理由があるからである。
こうした心理を「コンセンサスバリデイション」日本語に訳すと「合意妥当性の確保」と言っている。
「合意妥当性の確保」が得られると、生理的にも測定できる強さで快感が得られることを示す心理学実験もある。
そこでは半ば無意識のうちに、自分にとって都合のいい人を選ぶ。つまり「選択的接触」を行うわけである。
ここまでは、悩み事に対する一般論で、実際は、もう少し複雑なプロセスを踏む場合も多い。
例えば、男が浮気をしており、家庭をとるか、恋愛相手の愛人をとるかで、悩んでいるとする。
相談相手の候補は二人いる。
一人は名うての遊び人で男女の恋愛関係や異性をとっかえひっかえしているようなモテるイケメン、
もう一人は真面目人間で堅物で通っていて基本的にはモテない。いずれも学生時代からの友人である。
遊び人の友人に相談すれば、「お前は要領が悪いんだよ、結婚してる奥さんにはバレないようにうまく楽しむのさ」というアドバイスが
予想される。真面目な性格の方は「もういい大人だろ、浮気からはすっぱり手を引こうぜ」というアドバイスが返ってくる。
この時どちらの友達に相談するだろうか、もちろん本音の心理でどう思っているかが、
一番重要になる。しかし、もし家庭を大事にしたいと思っているとして、どんな場合でも真面目なタイプに
相談する方がよいだろうか。ここに「社会的比較」の原理から導かれる別の心理側面がある。
というのは、同じ言葉でも、自分の価値観と異なる人の言葉と、価値観の同じ人の場合とでは、得られる合意妥当性の強さが
違うのである。ということは、遊び人の友人に相談し、彼が「あんないいカミさんがいるのに、お前もアホだなあ、早く家に帰れよ」
と言ってくれるのが、ベストな答えのはず。つまり、同じ価値観の人間が、予想されるアドバイスをしてくれるより、
自分とは違うはずの性格や価値観の人間が、意外なアドバイスをしてくれる方が、合意妥当性の心理が強く作用し、
ずっと説得力があがる。いわば、スレスレのところで、自分の考えを肯定してくれる人を選び、
その人から期待している答えを引き出せれば最も悩みがすっきり快感になるというわけで、この辺が
、人間心理の一筋縄ではいかないところである。
恋愛相談をしている女性が彼氏と別れるのを後押しして欲しいのか、引き留めて欲しいのか誰に相談しているのか
観察することで
本音の心理が見えてくるはずである。女性の悩み相談や愚痴に対して男性が解決策を提案すると、
急に怒られるのも、このような男心や女心が根底にあるからである。